先端医療を地域へ、アジアへ

新技術から良いもの見抜くのがプロ/岡氏

岡義隆氏 おか・よしたか

1996年、愛知医科大学医学部卒業。
福岡大学病院、同大学筑紫病院、聖マリア病院に勤務後、
2002年に岡眼科クリニックを開業。
近く福岡市内に分院を開設予定。
日本眼科学会認定眼科専門医。

岡義隆

FSレーザーの情報共有は重要/李氏

李京憲氏 イ・ギョンホン

1974年、韓国カトリック大学校医科大学卒業。
93年、同大学医科大学院修士課程(眼科学)卒業。

李京憲

高度な手術に身震い

近藤 初めに、それぞれの病院の特徴をご紹介ください。

 釜山最大の観光名所、海雲台に立つ聖母眼科病院の開院は1988年です。眼科専門医は12人、スタッフ総勢で120人。角膜屈折矯正センターなど五つの専門センターに分かれています。2013年の外来患者は18万人。手術の内訳は白内障約5200例、レーシック3千例など計約9千例で、この実績は大学病院を含む韓国内の医療機関ランキングで2、3番目です。1997年にはアジア初の有水晶体眼内レンズ手術を成功させるなど、屈折矯正手術でアジアをリードしています。

 2002年に開業した岡眼科クリニックは「筑豊地区に最先端眼科医療を」を旗印にしており、09年、厚生労働省によって同地区で唯一の眼科先進医療実施機関に認定されました。力を入れている白内障の「多焦点眼内レンズ」の水晶体再建術は、13年の症例が390例と全国トップクラスの実績を誇っています。同年の白内障、緑内障、網膜硝子体など総手術件数は2400例と、九州有数の症例数です。この春には福岡市に九州最大規模の「岡眼科先端医療・屈折矯正手術センター」を開設し、秋には飯塚市に大型の新医院建設を予定しています。

写真左:岡眼科クリニックが導入している、FSレーザーによって白内障手術を行う装置。写真右:岡眼科クリニックでの手術の様子

近藤 多焦点眼内レンズがどんなふうに先進的かをご説明ください。

 従来の白内障手術は、主に加齢で濁った水晶体を取り除いた後、近くだけ、あるいは遠くだけがよく見える「単焦点レンズ」を入れます。多焦点レンズは近くと遠くの両方に目のピントを合わせるため、単焦点の弱点をカバーできます。ただ、特殊な見え方なので脳の画像処理能力が追いつかず、視力は出ているのにぼやける、夜は光がにじむといった見え方の人が数パーセント出ます。その不適応への対処は難しく、先進医療認定の医療機関しか手術できません。将来は主流レンズになる見通しですが、国内の普及率はまだ1%未満です。 多焦点眼内レンズも日々進化しており、乱視補正の機能を有したり、患者さん一人一人の度数に合わせたカスタムメードができたりする「第4世代」も登場しています。

近藤 李先生の病院は現在、どんな治療法に積極的に取り組んでおられますか。

 フェムトセカンド(千兆分の1秒、FS)レーザーというレーザーをメスの代わりに用いた白内障手術です。挿入する眼内レンズの精度が上がることで、手術に求められる精度も上がりました。最先端の機器はそうした要求に応えることができます。施術者の腕の優劣によらず、安定した治療成績が望める点でも優れています。

 その手術をじかに見たかった私は12年夏、FSレーザー治療でアジアでも有数の腕前を持つといわれた李先生を訪ね、手術を見学させてもらいました。「このテクノロジーは本物だ」と身震いしたのを覚えています。その日のうちに機器の購入を即断しました。現在でも、まだ世界に数百台しかなく、日本で使われているのは5、6です。

ソフト面の学び合いも

近藤 お二人は、地域医療への貢献をどんな形で進めたいですか。

 韓国医療の中心はソウルですが、私は「目の病気だけは釜山の人がソウルへ行かずに済むよう、最上の医療を提供しよう」という信念で開院しました。その実現には最先端機器と先進技術の導入が不可欠で、この25年間、それを貪欲に続けてきました。

 国内外とも医療の発展スピードは驚くべき速さですが、新しい技術や機器が全て良いとは限りません。その良しあしをプロとして見抜き、高度で優れた技術は積極的に取り入れ、大都市にも引けを取らない医療を地域の患者さんに提供してきました。その方向性は今後も変わりません 近藤 新しい医療技術への積極性は、両院共通ですね。今回の姉妹提携の狙いや思いをお話しください。

 岡先生はより良い医療を提供したいという情熱にあふれ、私の若いころを思い出します。両病院の医療情報や技術の共有は、さらに質の高い医療提供につながるでしょう。

 医療技術の共有についての具体的な話をしましょう。両院とも備えているFSレーザーの機器は米国製で、欧米人仕様です。アジアの患者さん向けにどんな工夫ができるかなどのノウハウを、ぜひ交換したいです。先ほど、多焦点眼内レンズを入れたうち数パーセントの人の見え方がおかしいと言いましたが、私たちはその不適応を直すトレーニング法を開発しています。李先生の病院では、そこをどう工夫しているかも知りたいです。 また、私が尊敬する李先生の医療に懸ける熱い思いや患者さんを大事にする姿勢、さらに聖母眼科病院スタッフのスキルアップのやり方など、私たちがソフト面で学びたいこともたくさんあります。

近藤 提携協定書には「アジア地域の医療水準の向上に貢献する」ともうたっています。最後に、その抱負をお聞かせください。

 うちの病院はベトナムに眼科を設立するなど、ベトナムの眼科レベルの底上げに尽力してきました。今後は先進医療も広め、ベトナムの医療水準を一層高めていきたいです。

 両病院が取り組んでいる先端医療のデータをどんどん公開することで、アジア各国の意欲的な医療機関が今後活用し、高度で安全な医療がアジアに普及する可能性が十分あると信じています。

2014年2月28日 西日本新聞掲載